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送られる人:
内山 章 / Akira Uchiyama
スタジオA建築設計事務所代表。
一級建築士。東京在住。
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送る人:
松田 拓巳 / Takumi Matsuda
North Lake Books主宰。
我孫子在住。
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今回はスタジオA建築設計事務所代表の内山章さんへ送る10冊です。 実は僕たちのお店、North Lake Cafe & Booksも内山さんのデザインした物件。そんな内山さんへセレクトした10冊を紹介いたします。
内山さんとの出会いはお互い20代のときではなかったでしょうか。遭遇する場所は共通の友人のアーティストたちのアコースティックライブやライブペインティングなどの イベント会場でした。内山さんが言うには「当時は酔っぱらっている松田さんしか見たことがなかった」と・・・言われています。内山さんに設計を相談したきっかけは彼が手がけたTSUNASHIMA CABINです。 2階建ての築数十年経った中古住宅をイタリアン・レストランと不動産事務所に改築した仕事にインスピレーションを頂きました。
それからはいろいろな活動でお忙しい内山さんに無理言って我孫子に足を運んでもらい、 数々のダメ出しと叱咤激励をいただき、我孫子でブックカフェを開くという 僕たち夫婦の絵空事を現実のものに導いていただきました。
彼がいなければ 100%実現できなかったNorth Lake Cafe & Books、感謝してもしきれませんが、 感謝の気持ちとこれからもよろしくお願いしますの気持ちを込めてセレクトしました。
1 海山のあいだ
作者は日本を代表するドイツ文学者。カフカを中心に翻訳多数、また旅や自然に関するエッセイも数多く出版されています。 山の香りに満たされた本書とドイツ文学の堅苦しいイメージとのギャップがとても面白く感じられます。
タイトルのとおり海と山の間には川が流れて町があり、その周りに人が住む。 内山さんは都市生活だけではなく川や里山での人の生活にも積極的にアクションをおこされている姿がこの書と重なりました。
2 屋上がえり
屋上を見つけると、ついついのぼりたくなってしまう。かってに内山さんをイメージしています。 町をイメージするには高いところにのぼって俯瞰してみることって大切なような気がしています。
学生時代、いろんな意味で現実から切り離された空間でしたよね、校舎の屋上って。 そういえば内山さんが初めて我孫子にいらしたときにも、我孫子でいちばん背の高いビルの展望台にのぼったことを思い出しました。
3 暮しの眼鏡
「暮しの手帖」初代編集長のエッセイ集。内山さんのすごいところは「実は大事なのは器(建造物)より、中身(生活)」と 思っていらっしゃるところだと思います。お店で言えばサービスということになりますでしょうか。
そして、じつに多くの暮しの情報をお持ちで驚かされます。 些細なことでも本質を見ている目は、 名編集長であり装丁家でもある花森安治さんとだぶる部分です。
4 鍵のかかった部屋
1、2、3とエッセイが並んでしまいましたが、小説も何冊か送りたいと思います。 人気作家ポール・オースターの「ニューヨーク三部作」のひとつ。
内山さんの心の奥底にはどうしてもアメリカが大なり小なり横たわっているはずで、今度その辺りの話もしてみたいと思っています。 リズムとか空気感など目に見えない部分がとても重要と思っているふたり(オースターと内山氏)。 どうでしょう?、10冊の中で最も読んでいる確率の高そうな1冊です。
5 ピアノの音
庄野潤三さん、ひそかなブームなのでしょうか。新たに短編集も発刊されているようです。 僕自身も数冊しか読んでいないので他の作品も読んでみたい作家さんです。
この書は夫婦の晩年、かけがえのない日々を描いた長編小説。 日常であること、普通であること、続けていくこと、内山さんに作っていただいた器の中で僕たち夫婦がやりたいことです。
6 コッド岬
ソローを1冊選びたかったのですが、ほぼまちがいなく「ウォールデン 森の生活」は読んでいるはずなので「コッド岬 海辺の生活」を。
私の勝手な印象ですが、内山さんは西海岸でなく東海岸。 これを読み終わったらぜひ「アメリカの鳥」メアリー・マッカーシーもお薦めしたいと思っています。
7 走ることについて語るときに僕の語ること
僕がこの本を手にとった2007年10月は、初めてのハーフマラソンを走ったときと重なっています。 僕たちのお店の前の道がコースになっている手賀沼エコマラソンです。
話をしているとどうやら内山さん、マラソンやトライアスロンに少し興味をお持ちのようで 「20代あんなに健康とはかけ離れていたところにいた松田さんがどうしてアスリートになっちゃったわけ?」 と先日質問されたりしています。
入門書の類いより、この村上さんの本の方がモティベーションあがると思います。
8 最後の冒険家
Wikipediaで石川直樹を検索すると「探検家」と「写真家」と肩書きがふたつあります。 本人は写真家と呼んでもらいたいという話をラジオで聞いた気がします。 でもわたしはやはり探検家、冒険家という認識の方が強いです、あまりにもすごい実績なので。
発言や立ち居振る舞いから、僕にとって最も好きな探検家でもあります。確か内山さんも好きだったと記憶していて。 熱気球で太平洋横断を試みた神田道夫との4年半のこと。作家、石川淳のお孫さんなんですね。
9 ホイットマン詩集 ポケット版 世界の詩人2
「情熱、それをなくして人と呼べようか」内山さんの熱き思いや眼力を感じると、ホイットマンのこのフレーズを投げかけられているようで、きゅきゅっと身が引き締まります。
詩も1冊混ぜておきましょう。ビート・ジェネレーションの作家や上述のヘンリー・デイヴィッド・ソローにも多大な影響を及ぼした ウォルト・ホイットマンを。彼を日本で初めて紹介したのは夏目漱石だったそうです。
10「室内」40年
建築に関する書物を専門家の内山さんに送ることは非常に難しいと感じました。 好みもあるだろうし、結局あきらめてしまいました。そこで1955年にインテリア専門誌「木工界」のちに 50年に渡って続いた「室内」を創刊した山本夏彦氏を直球勝負を避け変化球で送ってみましょう。
作家として世に出た彼がなぜ建築関係書籍出版社を作ったのか、女性編集者二人との対談形式に綴ったエッセイ集。
内山さんへ送る10冊いかがでしたでしょうか? 実に多趣味で見識も広い内山さんにセレクトさせていただいた10冊、なかなか選び応えがありました。ご本人に言わせればまったくの見当違いだ!と言われてしまうかもしれませんが、あくまで私なりの推察と感触からくるものですのであしからず。内山さん自身に興味を持たれたり、10冊のうち1冊でも読んでみたいと思われたら幸甚です。
次回は渡米して20年、地道に自分のブランドを展開しているHideki Abe氏に10冊をお送りします。
松田 拓巳 / North Lake Books